“後光”に騙されないために ― 『なぜビジネス書は間違うのか』 フィル・ローゼンツワイク著

今回のお題は、この本

なぜビジネス書は間違うのか

なぜビジネス書は間違うのか

なわけですが、
あらかじめ、ご注意申し上げておきます。

今回、過去に、以下の三冊の本を読んで、
心から感動し、なおかつ今でも「すばらしい!!」と心酔されている方がいたら、
多少、面白くない話になるかもしれません。

その3冊とは、

『エクセレント・カンパニー 超優良企業の条件』 (トム・ピーターズ、ロバートウォーターマン著)

『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』
(ジェームズ・C・コリンズ&ジェリー・I・ポラス著)

『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』
(ジェームズ・C・コリンズ著)


あ、他にもあるけど、代表的なのってことで。
ま、「なんですか、その小難しげな本は」という人も多いと思うが。

この3冊、いずれも、いわゆる「すごい企業」を分析し、そこから成功の法則を導き出して、ベストセラーになった本。
とくに『ビジョナリー』は、いまでも、よく引用されたり、お奨めにあげられている気がする。

ま、『エクセレント』はかなり古い本で、
なにしろ『ジャパン・アズ・ナンバーワン』なんて本が売れた時代
(今となっては、そんな時代があったことすら忘れそうだが)の本。

トヨタ、ホンダ、ニコン、キャノン、オリンパスソニー 東芝等々の製品がアメリカ市場にあふれ、
日本製は「品質の高さ」をあらわす言葉になった時代に、
「これがアメリカン・マネジメントの真髄だ――これでこそ上手くいく!」という副題をつけられて出版され、アメリカの経営者たちは飛びついた・・・というようなことが本書にも書いてある。

で、これらの本はなぜ、どのように間違えているのか?

著者は、「9つの妄想」というのをあげているのだが、
そのうちで根本にして最大の妄想を「ハロー効果」という言葉で説明している。

これは、アメリカの心理学者 ソーンダイクって人が名づけたのだが
「認知不協和(個人に与えられた情報に矛盾があるときに生じる不快感)を解消するために、一貫したイメージをつくり上げて維持しようという心理的傾向なのである」
・・・って、そんなことを言われても。。。

いや、大丈夫、著者もちゃんと分かりやすく説明しています。
曰く
「全体の印象から個々の特徴を判断する傾向」で
「一つひとつの特徴を個別に評価するのは難しいから、全部一緒くたにして考える」こと。
こういう心理的傾向を「ハロー効果」と、ソーンダイクは名づけたそうな。

ちなみに ハローは、hello じゃなくて Halo。
日本語に訳すと「後光」となるわけで
つまり、後光が差してると、目がくらんで、細かいところが分からんということかな?
(英語だと、宗教画で頭の後ろに光っているのとかいうらしい。たしかに「後光」だなあ)

もう少し具体的に。

では、ビジネス書における『後光』とはなにか?
それは、なんと言っても業績。

で、業績のいい会社を選んできて、
たとえば、その会社の管理職に膨大なアンケート調査をして
「あなたの会社の企業文化は優れていると思いますか?」とか
「あなたの会社の戦略は優れていると思いますか?」とか
聞いたって、そりゃ「優れている」って答えるに決まってるじゃん。

みんな、戦略が優れていて、よい企業文化が根付いていたら、業績はあがるだろうって、なんとなく思ってるんだからさ。

対象の新聞記事とか参考資料にしたって言ってるけど、
新聞記者なんて深く考えないで「ハロー効果」受けまくりの記事を書くんだからあんまり参考にしちゃだめだよ。

「業績」って後光が差しちゃったら
細かいところ、
たとえば、ほんとにその会社に企業文化が根付いているのかとか
戦略が優れていたのかなんて、人間は厳密な調査とか判断はしないもの。

戦略が優れていないのに、業績がよい会社があるのかって?
そりゃ、たいした戦略もないけど、
ひょんなことから市場や業界全体がどんどん拡大していって
「バカがやっても、そこそこ儲かる」ことだって、案外あるんだよ。

逆に、どんなにすばらしい経営をしていても、技術革新等によって、その業界自体が要らなくなってしまう、ということだってあるんだし・・・。


とまあ、簡単に言ってしまえば、こういう話をしているわけである。
で、前記の三冊を詳細に分析すれば、結局、こういう誤りを犯してるじゃんか ということを著者は緻密に分析・証明していくわけである。

まさか、あんなちゃんとしたベストセラーが・・・と思うけど、著者の手にかかると、確かにその調査方法やロジックへの疑問が浮かび上がってくる。

先にあげた、本書は「9つの妄想」をあげているといったけど、その二つ目は「相関関係と因果関係の混同」。

これは、世の中によくある話。
たとえば。

「アンケート調査の結果と、小学生の成績を分析した結果、『成績が良い子供は朝食を毎朝ちゃんと食べる』ということが分かった。
よって、毎朝朝食を食べれば、成績は上がる」
みたいなの。

この調査の場合、「朝食」と「成績」に相関関係があることは分かったのであって、それが「因果関係」かどうかは分かっていない。

朝食を毎朝食べる家ってのは、生活習慣も、親のしつけもしっかりしてて、家庭学習の時間も毎日とっている。
だから、朝食ちゃんと食べる小学生は、成績がいいという風に見えるだけであって、
「朝ごはんは食べないけど、毎日宿題以外にも家で勉強している子」がいた場合、
朝ごはんは食べてないけど、成績はいい。
大事なのは、結局毎日勉強してるかどうかである・・・ということが、真実だったりすることがある。

(なお、この例は、本書の中にのってるわけじゃないっす。
あと、「朝ご飯を食べると脳が活性化されるので・・」みたいな話が本当なのかもしれないが、ここでは、それは考慮に入れてません。
あくまでも話を説明するための「概念的なモデル」ってことで、どうかよしなに)

これまた、冒頭のベストセラー3種が、こういう誤りをたくさん犯していることを証明してみせるわけである。

以下、細かい話は、省略するけれど、よってもって上記3冊は「科学」ではなく「ストーリー」に過ぎないと一刀両断。
いえ、アタクシじゃなくて、この本の著者が。

だから、著者によれば、企業パフォーマンスを向上させるために必要なのは、
上記三冊がいうような「歩き回るマネジメント」だの「時を告げるのではなく、時計をつくる」だの「第5水準のリーダー」だの、そんなものは置いておいて、
「戦略の選択と実行」であるという。

アタクシなりに言い換えれば、何を、どこに、どれだけ、どういう風に売っていくかを真剣に考えて、
で、それをちゃんと効率的にやってけ、って感じかなあ?

で、前者は社内環境のほかに、競合他社やテクノロジーを考慮しなければいけない。
顧客の反応や、技術革新は確実に予測なんて出来ない。
後者は、同じことをしても組織によって効果が異なるから、成果が確実とは限らない。
だから
「企業は、適切な戦略を選択し、業務の効率化につとめ、なおかつ幸運に恵まれれば、少なくともしばらくはライバルに差をつけることができるだろう。
だが、そうして手に入れたものも、やがては消えていく」

ちなみに著者が成功例としてお気に入りなのは、
メモリ事業からマイクロプロセッサに集中したときのインテル
インテルが、良い例として、入ってる。
(すみません、オヤジギャグ、しかも七五調。。。いや、作ってみたら偶然そうなってたんだけど)
ま、その後、日本企業はメモリで苦労したもんなあ。。。


・・・なんとも、厳しくかつ面白みのない答えが出てくるわけだが、ま、真実って大体そういうものだったりするからな。
「これだけやれば絶対合格する!」って参考書や受験ノウハウ本が胡散臭いのと一緒だ。

しかし、あれですよね。
ハロー効果とか、因果関係と相関関係の混同とか、別にビジネス本に限った話じゃないですよね。
世にはびこるトンデモ本(ってこの言葉、いまでも通じるのか?)なんか、その宝庫、ではある。


あ、京都にいると、なんでも「やっぱり京都だからなあ」と思ってしまうのも、京都という「後光」のせいだろう。
後光、強そうだし。

なおこの本、財務の数字をつかって『エクセレント・カンパニー』や『ビジョナリー・カンパニー』の会社をちゃんと分析して表までのっけていたり、きわめてロジカルで緻密な分析を土台に書いているのだが、この本自体は、けっして、一部学術書にありがちな読みにくさはなく、翻訳も平明。
著者は、難しいことをちゃんと分かりやすく説明できる人で、翻訳者も優秀な方なのだと思う・・・って上から目線で申し訳ない。