都知事選の結果を見ながら ― 石原慎太郎論

それにしても、あれだよ。
8時になった瞬間に都知事選の当確だされちゃ、興ざめだなあw
なんも面白くないじゃんよ。(やや不謹慎発言)。

はっきり書いてしまうのだが、アタクシは石原慎太郎という人が、どうしても支持できない。

それは、思想がどうとか、そういうレベルの話ではない

アタクシとしては石原慎太郎が都知事になってよかったことは一つ。
石原慎太郎が総理大臣になる可能性がなくなった」こと。

まあ、新宿歌舞伎町が目に見えてマトモな街になった、というのも功績の一つなのかもしれないが、「歌舞伎町を追われた覚せい剤の売人が、普通の住宅地にも出没するようになった」という説が本当ならば、それもなんだか、だし。




この人が世間に躍り出たのは、大学生のときに書いた『太陽の季節』という小説で芥川賞をとったから、というのは多くの人が知っている。

この小説がある種の社会現象となり、
その映画化で銀幕デビュー(あえて世代にあわせた表現を使ってみた)した弟・石原裕次郎が国民的スターになった、とか、
小説や映画に影響された若者が「太陽族と呼ばれた」なんて話は「何を今更」な昭和豆知識である。

そんな『太陽の季節』だが、読んだことがある人がどれくらいいるだろうか?

まあ、ある一定世代から下になれば、あまりいないでしょうね。

いいよ、読まなくてw 
文章読みにくいし今読んでもつまらねえからw 
読みたきゃ、いまでも新潮文庫で出てるけど。
いや、読んでもいいけどさ。
日本文学にはもっと読むに値する本がたくさんある。
そして人生は短い。

太陽の季節
要するに湘南の不良なボンボンが車だヨットだ酒だと好き勝手やってる中で
出会った女の子を妊娠させてしまい、
中絶手術を受けさせるんだけど、それが失敗して、それが元でその子は死んじまう、という話。

男性が体の一部を使って障子を破って云々という描写が話題になり、
映画化が決まったとき「あのシーンはどう映像化するんだ」と気になった人も多いと聞くが、
当ブログの品位の問題もあるので、詳細は割愛する。

ずいぶん前に読んだきりだが、文章はけして上手いとは思えなかったと記憶する。
今、wikiで調べたら、芥川賞選考当時には、内容の倫理性と別に「誤字があること」が問題になったそうな。

念のために言っておけば、「この小説には倫理的に問題がある」なんていう野暮な非難をするつもりはない。
『処刑の部屋』なんて小説は、その過激な反倫理性で論争を巻き起こしたらしいが、小説だもの、それも「アリ」だ。

評価はただ一つ、「つまらねぇよ」の一言で十分。

ま、当時、こういう話が「社会現象」として反響を呼んだというのは、分らんでもないけどね。
当時、「石原慎太郎の小説に影響されて」性犯罪を起こしたバカもいたらしいし。

そういう意味で社会風俗史の資料には、なるのかもしれない。
だが、今となっては、それ以上の意味はない。

余談ながら、ちょうどこの小説が話題になった頃、国会で「売春防止法」の審議が行われていて、そのカラミで「善良な風俗とはなんぞや」という議論が行われていた。
そのとき引き合いに出されたのが『太陽の季節』と谷崎潤一郎の『鍵』。
文脈としては「今や、こんな小説がフツーに発表されているが、いかがなものか」ということである。
(この辺、ネットの国会審議録の検索システムで簡単に見つかる)
そうか、ものさしを変えると、谷崎とならべられちゃうのね。
まあ、『鍵』も、ほとんど18禁の小説だとは思うが。
(あ、でも名作ですよ。あまり『好きな本』として、これを上げてしまうと、引かれてしまうかも知れないが)。

まあ、つまり、石原慎太郎って、既成のモラルや価値観に反逆する青年として、世に登場したのである。

それがいつの間にか、あんなことになっているわけだ。

いや、そんな若い頃を送った人が、後年「不健全な図書は規制しよう!」という都知事になったって、それはそれでかまわない。
不良が熱血先生になったり、元共産党員がバリバリの自由経済主義者になることだって、決して珍しくない。

ただし。

こういう転向を経験した人って、その過程で、さまざまな苦しみを乗り越え、過去の自分と決別して(それは、凄い苦しいことだと思う)、今の自分の思想を獲得していることが多い。
そういう経験をしているからこそ、「間違えてしまう」人の気持ちも分かる。
だからこそ不良の気持ちの分かる熱血先生が、生徒の支持を得たりするわけだ。

翻って、石原慎太郎。どうだろうか?

何年前だったか、金谷ひとみと綿原りさ、という、若い女の子2人が芥川賞をダブル受賞する、という事件があった。
当時も石原慎太郎は審査委員だったが、この2人には冷たかった。
今ネットで検索したら、金谷ひとみの『蛇にピアス』に対して、「私にはただ浅薄な表現衝動としか感じられない。」と評したと出てたが。

芥川賞でのこの人の選評、たいてい「若くて新しい」人は潰しにかかるのである。
で、「オレの若い頃にはとても及ばない」というようなことを言う。
いや、さすがに直接選評でそうはいわないが、とりあえず「いかにどんどん文学が衰退していってるか」を嘆いている。

まあ、今や表現の手段が文学だけではなくなっているわけで(映像だって音楽だってゲームだってお笑いだって表現手段だ。今のお笑いさんの中には、かつての作家より、よほど「作家性」をもってネタを作っている人はたくさんいると思う)、その意味で「衰退」はしているかもしれないが。

少なくとも、この人が過去の自分の作品や、そこに見られる思想について「反省」しているのを見たことが無い。
あれば、おしえてください、誰か。

今さっきテレビで「今のテレビ、どれも性欲だの金銭欲だの、我欲ばっかりじゃないですか」という意味のことを行っていたが、たぶん、それって、昔「太陽族映画」に対して言われてきたことだろうと思うが。
そして、そんなあなたの発言も、「今のテレビ」があってこそ、多くの人に届くという現実。
大体、この人ほど、上手くメディアに乗っかって社会に影響を与えてきた政治家って、日本ではそうそういないだろう。


そういえば、「新銀行」の失敗を議会で責められたときに「アタクシが前面にたってやってれば、もっと上手くいってた」的なこともいってたな。

以下、いちいち論証はしないが、アタクシの見る限り、どうやら「反省する」ということがなさそうに見えてしょうがないのである、この人。

反省がない。自らの誤りを認めることもない。
俺が俺がと突っ走ってきた、そんな78歳。
こういう変革が求められる時代の知事として、どうだろうか?

「年齢を重ねると人間丸くなる」のは、もともと、そういう素質があったり、そういう風にあろうと努力してきた人だけの話で、この手のタイプは、年をとるほど、かたくなになりそうだ。



佐野眞一著作に『誰も書けなかった石原慎太郎』というのがある。

これ、文庫版になったときに改題されたもので、単行本出版時のタイトルは『てっぺん野郎』であった。(慎太郎の小説の題名からとったらしい。)

これ、なによりも、「ああ、佐野眞一って人は、石原慎太郎と彼を人気者にしてきた戦後大衆社会ってやつが大嫌いなんだなあ」ということが良く伝わる本である。
その思いが強すぎるせいか、佐野眞一の本の中では評価がそれほど高くないようだが、読み応えはある。

佐野眞一の見立てによれば、この人、自分が「てっぺん」でいたい自己愛肥大のナルシストなのである。
なるほど。

アタクシの見るところ多分、「太陽族」も「愛国」も「我欲の否定」も、自分を格好良く見せるための「手段」に過ぎないのではないか。
だから、その場その場でカッコイイことを行って、それが実行できなかったり、いつの間にか発言がずれて行ったりしても、本人としてはとくに「反省」もないんではないのか。

すると、彼に「一貫した思想や主張」などないということになる。
そんな彼を支持するとしたら「石原慎太郎が好きだから」という理由しかなくなる。

だから、アタクシが支持しない理由も一つでよかろう。
「好きになれないから」である。

まあ、確かに、カッコイイのである。
過去の言動の矛盾とかを考えることなく、その瞬間瞬間だけ見ていれば。

「大銀行だけが儲けて、庶民が苦しんでいるから、俺が新しい銀行つくってやる!」なんて、めちゃめちゃかっこいい。

その部分だけ切り取ってテレビで見れば、本当に頼りになりそうなリーダーだ。
現実が本当にそのとおりで、そして、言ったとおりのことを実行してくれるのならば。


うろ覚えで恐縮なのだが、とあるトーク番組に石原家の次男坊、ヨシズミ君が出ていたことがある。(聞き手がくりいむしちゅー上田だったので、『おしゃれイズム』のはず)。

そこで、ヨシズミが、子供の頃、オヤジが大嫌いだったという話をしていた。
外では子育てについてとか、偉そうに語っている(実際、子育て本がそこそこベストセラーになったはずである)けど、
「お前、いったいオレの何がわかっているんだよ」とか思っていたらしい。

そんな話の後、上田が、「でも、そんな怖いお父様も、お孫様には優しかったりするんでしょ」という話をふった。
すると、ヨシズミが、こういう感じのことを答えたのである。
(正確には覚えてないけれど)

「いやあ、違うの。うちのオヤジは、子供のことよりも、孫のことよりも、自分のことが大好きなんだから」

この瞬間、MC上田のみならず、スタジオ全体が「あ〜、なるほど」と納得したような空気が、ブラウン管、じゃなかった、液晶を通じて伝わってきた(ような気がした)。
石原慎太郎の本質をすごく表している気がする。
ヨシズミ、なんだかんだいってテレビでそれなりに愛されている(ように見える)のは、こういう「正直まっとうな人」な感じが、伝わるからではないだろうか。

まあ、あれだよ。
「我欲」について、思う感想は、ただ一つ。

お前が言うな!


あ、そうだ、府議会と市会はどうなったんだ?
今日投票に行ったのは、そっちだった。。。