役人の数は適切か? ― 『パーキンソンの法則』 C.N. パーキンソン 著

パーキンソンの法則 (至誠堂選書)

パーキンソンの法則 (至誠堂選書)

統計局のホームページによれば、日本の国家公務員の数は29万2405人だそうである。
http://www.stat.go.jp/data/nihon/g5324.htm

この数が多いのか少ないのか、よく分からない。
なにしろ、パーキンソンの法則によれば、役人の数というのは、仕事の量と関係ないのであるから。

パーキンソンの法則とは
「仕事の量と役人の数には何の関係もなく、
雇用される物の数は、その仕事が増えようが減ろうが、
そんなことに関係なくひたすら増え続ける」というもの。

この法則、新聞のコラムとか、オヤジ系の文章に時折引用されるが(もっと短くまとめられていることも多いけど)、案外、原典を読んだことが無い人は多い。
いや、何を隠そう自分もそうだから、今回読んでみたわけですが。

パーキンソンの法則』 C・N・パーキンソン著 森永春彦訳

あ、原典といっても翻訳ですけどね。。。

著者は1909年生まれの、イギリスの政治学者・歴史学者。
第2次大戦中に軍関係の役所で働いた経験が、この本を書くきっかけになったようだ。

本書には、英の経済誌『エコノミスト』他に掲載された論文を10本、収録されている。
その1本目が、「パーキンソンの法則―公務員はいかにして増えるか」。

著者によれば、公務員が増え続けるのは
1)役員は部下を増やすことを望む。ただしライバルが増えることは望まない。
2)役人は互いのために仕事をつくりあう。
という二つの素因によって生み出される現象なんだそうな。

パーキンソンは、この法則はイギリスの海軍省および植民地省の実際の人員数の変化から割り出したと主張する。

イギリスの海軍の現役の主力艦は、1914年に62隻あったものが、1928年には20隻に減少している。67.4%の減少である。(第一次大戦後の軍縮のため)。
そして、士官と兵の数は14万6千人から10万人へと減少(31.5%減)。
にもかかわらず、海軍省は2000人から3569人と、78.45%も増大しているのである。
船と軍人の数が減っているということは、明らかに軍としての仕事は減っているはずなのに、それを管理する役人の数は増えている!

植民地省についていえば、1935年に372人だったものが、1943年には817人、1954年には1661人になっている。
当然ながら、1945年以降、イギリスの植民地はどんどん減っていて、当然、植民地省の仕事は減っているはずなのに、である。

かくして、「仕事に関係なく役人の数が増え続ける」という法則は見事に実証され、
パーキンソンは、これをK=部下を得て昇進を望む役人の数、L=任官時と退職時の年齢差、といった定義をおいて数式化してみせるのだが、
まあこれは一種の「ブリティッシュジョーク」、である。

この法則の根本には「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という法則が存在する。
(こちらのほうを「パーキンソンの法則」ということも多い)。
事務の仕事というのは
「1時間以内で」といわれれば1時間以内で、「半日でと指示」されれば半日かけてやれてしまうものだったりする、ということだ。
・・・と、こうなるとコトは役人だけの話ではなくなるな。
ホワイトカラーにはありがちな話、ではある。自戒もこめて言うわけだが。


この本には、この手の「法則」や「分析」が10ばかり載っている。
いずれもまあ、イギリス流のユーモア、というやつか。

他の章には、閣僚の定数は5人までが最適、次の段階が20人までで、これを越えると内閣は実権を失い、より小さな集団が実際の権力を握っている、なんて話もある。
これは、内閣だけでなくて、世に委員会というものは、20人を越えると実質的な決定ができないものだそうだが。

面白いのは、本書執筆時点の世界各国の内閣の数を著者が調べたところ、
中国22人、キューバ27人、ソ連38人。
おおむね20を越える国は、内閣に実質の権力は無くて、トップが絶大な権力を握っていたという。

他にも
「建設計画は常にその機関の崩壊点において達成される」
(=ある組織や機関が、本部とか本社のためにそれまでにない立派な建物を完成させた頃には、没落が始まっている。
たとえばベルサイユ宮殿が完成したときは、フランス絶対王政の頂点を過ぎた頃で、あとは段々とフランス革命に向かって没落し始めている)とか、

「議題の一項目の審議に要する時間は、その項目に関する支出の額に反比例する」
(=あまりに膨大な予算のかかる話て、リアリティが無くて比較すべきものが分からないので、結局みんなよく分からないままOKしてしまう。
それに比べて、額の小さいものは、だれでも比較・検討しやすいので、いろいろと口出しする)
といったところが、面白いかな。


まあ、全体として、あえて「どうしても読んでおくべき」というほどではないが、ちょっとネタとして面白い。

まあ、もともと古い本な上に、翻訳も古いので、いま一つ読みやすくなかったりするんだが。

なお、なぜか本書の訳者は、東大の原子物理学の先生。
あとがきによると、訳者氏は、恩師から初めてパーキンソンの法則について聞いたんだそうだ。
で、なぜその恩師がこの法則を知っていたかというと、原子炉物理学の世界的権威であるワイゼルベルグという科学者が、
東海村原子力施設を訪れたとき、
「日本原子力研究所開設にあたり、パーキンソンの法則の厄介にならないことを祈りつつ」という言葉をおくったから、だそうである。
当時のイギリスでは、相当に流行った本、らしい。

ううむ。

原子力保安院やら、原子力委員会やら、通産省やら、やたらと役人が働いているようだが「仕事の量に関係なく人員が増え続け、互いのために仕事をつくり合っている」なんてことは無いんだろうなあ。。。

結局、時事ネタでオチに持っていってしまった。
別に、そういうつもりは無かったんだが。