血液型? それウソだからさあ ― 『心理テストはウソでした』 村上宣寛 著

心理テストはウソでした (講談社+α文庫)

心理テストはウソでした (講談社+α文庫)

何しろテレビでも雑誌でも、血液型占いというのはよく見かけるくらいだから、信じている人も結構多いのだろうと思う。

なかには、まず人の血液型をきいて、それで人間関係を構築しよう、なんて人もいる。
これは、はなはだうっとおしい。

『心理テストはうそでした』村上宣寛 著(講談社プラスアルファ文庫)  

の第1章を読んだらいかがですか? といいたいところだが、読まねえだろうな。
っていうか、たとえ間違いと思っても、頭ごなしに否定してしまえばカドが立つのが、人間社会の難しいところだ。
世の中「正しいことを言う」のが常に「正しい」とは限らない。

この村上先生という人、富山大学の先生なのだが、心理学の世界では歯に衣着せぬ物言いで恐れられている、らしい。

この本では、血液型を筆頭に、ロールシャッハやら、クレペリン検査(横に並んだ数字が書いてあって、それを2つずつ足していくヤツ)とかを、最新の心理学の知見に基づいて、「間違い!」と一刀両断する。
やや専門的な内容に入り込んでいる部分も多いのだが、素人が読んでもそれなりに分かる。
こういう本が書ける人は、おおむね信用できるもんである。

で、血液型性格診断がいかに当てにならないか、ということの証明については、興味がある人は原本にあたっていただくことにして、興味深いのは「日本における血液型性格診断の起源」について。

知っている人は知っていることだが、ABO式血液型による性格診断というのは、日本が発祥の文化である。
最近は韓国や台湾にも輸出されているが。

本書によれば、日本の血液型診断のルーツは、古川竹二という教育学者の「血液型による気質の研究」という論文にあるらしい。
で、戦前の時点で論争の末、1933年の時点で日本法医学会総会で公式に否定されるらしいのだが、なぜか、戦後の1971年、能見正比古という放送作家の手によって復活する。
これが大成功して現在に至る、というわけだ。

これは血液型診断に限った話しではないのだが、この手の「心理診断」で気をつけないといけないのに「バーナム効果」というのがある。
これは「誰にでもあてはまる一般的な記述」を「自分だけに当てはまる特殊な記述と信じ込んでしまう」ことを言うらしい。

「あなたには、どこか人前で緊張してしまう気の弱いところがあります」とかいわれたって、まあ普通の人はそうですよ、と、そういうことだ。
そりゃ「あたっている」のである。

これ、心理診断のみならず、物事を正しく把握するために必要な知識として敷衍できそうな気がするなあ。

ちなみに「バーナム」というのは、人の名前。
ショービジネスなどで活躍した、まあいっちゃわるいが、ちょっと「山師」的な才能がある人で、サーカスの象に「ジャンボ」と名づけてブームを呼んだりしたらしい。
(ジャンボ・ジェットというのは、ここから来ている)。
この人の有名な言葉に「おめでたい奴というのは、次々生まれてくる」というのがあるそうだ。

血液型、別に個人で信じている分にはいいんですけどね。
人を巻き込むのはやめてほしいんだけどなあ。。。


とはいえ、アタクシもここまでしっかりと、血液型に対するスタンスをもったのは、成人して以降のことなので、いつのまにか「血液型による性格の違い」に関する知識が刷り込まれてしまっている。

で、これ、邪魔になるような気がするので、最近は人には血液型は聞かないようにしています。
AB型、と聞いたとたんに「この人、ちょっと変わった人かも?」なんて偏見をもってしまったら、有害な気がするので。

もう、最近は「アタシはA型だから、きちんとしているはず」とか思い込んでいる日本人も多そうだが。


本書では、実は血液型の話は「マクラ」に近く、以下、ロールシャッハ他、これまで権威のあった心理検査をメッタ切りにしていく。

アタクシは、ジャンルに限らず、この手の「知性の刀で、なにかの権威やら世間に流布する間違いやらを一刀両断にしていく」類の本は大好きなので、非常に面白いです。

そして今となっては大間違いが明らかな言説が、なぜにかつては正しいと信じられ、そして、それが一部ではいまだに信じられているのはどうしてなのか、という流れを見るのも、考えさせられるものがある。

ただ、現実の現場で、そうした「間違いだらけの検査」が活用されている実態は、ちょっと怖い気もしますが。。。


著者の村上センセ、最近新刊で『性格のパワー 世界最先端の心理学研究でここまで解明された』という本を出されていて、これがなかなか面白いらしい。
時間を見つけて読むことにしよう。