自分で選びたい人たち ― 『アメリカ 選択肢なき選択』 安井明彦 著

アメリカ 選択肢なき選択 (日経プレミアシリーズ)

アメリカ 選択肢なき選択 (日経プレミアシリーズ)

財政再建に向けた選択を先延ばしがちなのは、政治的な理由が大きい。財政再建の選択肢は、相当程度明らかになっている。足りないのは政治の決断である。」
財政再建は世代間の綱引きの様相を呈している。多くの世論調査では、世代が若くなるほど公的年金医療保険財政再建に前向きな傾向が鮮明である。」

一瞬、日本の話かな? と思わないでもない。
でも、これはアメリカの話。
この文章は、

アメリカ 選択肢なき選択 (日経プレミアシリーズ) 安井明彦著 

からの引用である。


アメリカ国債のデフォルト危機、加速する円高、アメリカ国債初の格下げと、経済ニュースが騒がしい。
輸出関連企業にお勤めの方は気が気じゃなかろう。

この本、初版が7月8日。上記のようなドタバタの背景を読むのに、うってつけ、である。



と、ここで、話はちょっと変わるのだが、サブウェイのサンドウィッチはお好きだろうか。
「野菜のサブウェイ」というくらいで、ヘルシーなファーストフードということで評価が高いらしい。
アタクシも嫌いじゃないし、なにしろ「マクド(マック)より野菜たべろ」な年齢なので、もう少し愛用したほうがよいのだろうが、いかんせん、今の日常の行動半径に店舗が無いので、最近はあまり食べてない。

今でも覚えているのだが、初めてサブウェイに行った時は、結構戸惑った。
なにしろ、やたらといろんなことを聞かれて、「選択」しないといけないのである。
やれパンの種類は、パンは焼くのか、野菜は全部入れていいのか、ドレッシングはどうする。。。。

これは、なにもサブウェイに限ったことではなく、本書の冒頭に記してあるところによれば、「ニューヨークのサンドウィッチ」というのは、そういうもの、らしい。
そして、アメリカ人の、とくに常連客は、店員に聞かれるまでもなく、前のめりに「自分の好み」をまくし立てるのだそうだ。

これが、アメリカ人なのである。選択の機会にこだわる。自分で選択ということ、その機会が与えられること。
「将来を選びとることができる」という信念が、米国を一つにまとめる求心力の源泉だった・・・と著者は言う。


そしていま、アメリカという国は、「選択肢を国民に提示できなくなりつつある」というのが、本書に一貫して流れるテーマである。

最近、日本のニュースではあまり見かけなくなってきた気がするが、ティーパーティー運動、というのがある。
オバマ政権による金融機関や自動車産業の救済、医療保険制度の改正などに反対し、「小さな政府」を希求する草の根運動のことだ(って、この説明で大丈夫か?)。

08年に「オバマ旋風」が吹き荒れて史上初の黒人大統領が生まれたとおもったら、気がつくと、「超保守」なムーブメントが生まれてきたのだが、著者によれば、この二つの動きには「驚くほど似通った性格がある」と著者は言う

まず、両方とも「草の根」の運動であるということ。
オバマ大統領の選挙戦において、ブログやツイッターを通じた、個人の動きが大きな影響力を持っていた。
ティーパーティの運動でもネットツールは存分に活用されているらしい。

そして、富裕層が直接的に関与していること。
かつてのアメリカの政治活動では、富裕層の支持者は資金や票は供給しても、政策そのものに、直接関与することはすくなく、それは、政党や政治家が決めてきた。
ところが、最近の富裕層は、政策そのものにも影響力を及ぼそうとするのだそうだ。

さらに、これが「第3の共通点」につながるという。
それは「エスタブリッシュメント(従来型の権力)」に対する異議申し立て、という性格だ。
つまり、既存の政党や政治家に任せちゃいられねぇぜ、ということだろう。
それが、保守(=共和党支持者)、リベラル(=民主党支持者)双方の側に生まれている、ということだ。

この手の運動が対立軸の双方に生まれると、えてして政治は二極化する。
そして「どっちもなあ・・・」という無党派も、当然いるわけだ。
そして、この3つのどこに属する人も、「今の政治は、我々に選択肢を与えてくれない」という不満を募らせる。


二極化といえば、経済もそうだ。
もうすでにいろんなところで言われていることだが、アメリカでは所得の二極化が進んでいる。
当然、「下」のほうに属する人達にとって、「選択肢」はどんどん無くなっていく。

アメリカは今や、先進国のなかでも「所得階層間の移動」がしにくい国になっているという。
「アメリカンドリーム」(=自分の努力で将来を選択することが出来る)は実現しにくくなっているのである。
統計によれば、今やイギリスの方が低所得層に生まれた子供が上の階層に「なりあがる」可能性が高いのだそうだ。

そこへ持ってきての、リーマンショック以降の不況。
そりゃ、「行き詰るな」というほうが難しい・・・と、なんだか小難しい話が続いてしまったが、多少は、今のアメリカを覆う「閉塞感」を、著者がどのように分析しているか、ご理解いただけただろうか?


本書全体は3部構成で、第一部は「選択」を求めるアメリカ人が、政治や経済の激動のなかで、どのように、それを奪われつつあるかという現状分析。第2部は医療保険とか教育とか、個別のイシューに関する現状。第3部が今後の展望、という構成なのだが、お察しのとおり、まだ第一部の一部の一部しか紹介してない。
二部以降、興味がある方は是非原本へ! と逃げてしまうわけだがwww


それにしても、あれだな。「選択」へのこだわり。
アメリカ人の学生にアンケートをとると「朝、目覚ましを止める」とか「歯を磨く」といった行動も「自ら選択した行動である」という意識を持っていることが多いのだそうである。基本的には「自分の死」以外のすべてにおいて、「自分で選択して決めたい」のがアメリカ人、なんだそうな。
う〜む。日本人の無常観 とは、やはり距離がありすぎるなあ。

どちらが上、ということではないのだろうが。

いずれにしろ、この本、以前に以下のエントリで書いた『民主党のアメリカ、共和党のアメリカ』と並んで、今のアメリカを理解するのに極めて有益、だとおもいますです。はい。
アメリカがよく分からない ― 『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』 冷泉彰彦 著 - 洛中乱読乱写日記