アイデアだけのアイデアには意味がないということ ― 『アイデアの99%』スコット・ベルスキ著

珍しく「いかにもある種のビジネス本らしいビジネス本」の登場である。

アイデアの99% ―― 「1%のひらめき」を形にする3つの力 スコット・ベルスキ著

なぜこの本を読んだのかといえば、なんとなく帯にある売れっ子アートディレクター、佐藤可士和氏の「実現しないアイデアはアイデアとは呼ばない。単なる妄想だ」という言葉に魅かれたのかもしれない。

そうなんだよなあ。

このブログの中の人も、次々といろいろと新しいアイデア繰り出す発想力の持ち主である人と仕事をしたことがあって、すごいなあと関心した時期があった。
でもそれって、そのときは面白い(面白そう)なんだけど、いざそれを具体化してビジネスとして成立させるところまで面倒を見ないと、あまり意味がない。
まあ、頭の体操という意味では無意味ではないのかもしれないが。

もはや旧聞に属するが、作家の田中慎弥氏が芥川賞を授賞したとき、某選考委員(兼・都知事)への挑戦的な発言が話題を呼ぶ裏で、氏が「二十歳のころから、20年近く、一日も休まず何かを書き続けてきた」という話が、それなりに注目された。
文才とかセンスとかクリエイティビティとかいう前に、20年続けるということ自体がすごい。
才能なんかなくても、20年書き続ければ、誰でもそれなりの小説が書けるようになるんじゃないかという気がするが、そもそも、20年続けるということが「誰でもできる」ということではないわけであろう。

著者いわく、「優れたチームやクリエイターは、説明のつかない『天才的なひらめき』によって成功したのではない」。
彼らに共通するのは
1 物事をきちんと整理し、次々と片づける
2 仲間を引き込み、コミュニティの力を利用する
3 プロジェクトを率いる戦略がある
ことだそうな。

ま、作家なんてのは「一人でやってるんだから、2や3は関係ないんじゃないか」という声も聞こえてきそうだが、実際は、編集者との関係があったり、文芸誌の編集部とあれやこれやあったり、いろいろですからね。
ついでに言えば、アメリカなんかだと、作家にもエージェントなんてのがいたりして、また話は複雑になってくるし。

で、これをさらに整理すると、次のような公式になるという。
イデア実現力=(アイデア)+整理力+仲間力+統率力

なぜ、一番大切と思われる「アイデア」をカッコに入れてしまったのかといえば、それは本書では取り上げないから(笑)
もともと「それなりにアイデアはあるんだけど、結局実現できない人のための本」だから、それでいいのである。
・・・もっとも、このブログの中の人は、「アイデアをどうやったら発想できるかというのは、結局教えることができない部分なのでネグったのではないか」と心のどこかで疑っているのだが、まあ、それはいい。

で、以下「整理力」「仲間力」「統率力」それぞれについてのノウハウについて語られていくのだが、個人的には、一番役に立ちそうなのは、「整理力」の章の中で提唱しているアクションメソッド、すなわち「プロジェクトを3つの要素に落とし込む」というところだろうか。

その3つとは アクションステップ(やるべきこと)、レファレンス(参考資料)、バックバーナー(後回しにすること)。

ここでいうプロジェクトとは、なんか大がかりにチームを組んで云々・・・という話ではない。著者曰く「人生のあらゆることは、プロジェクト」なのである。

なにしろ、メールとやらの発達のおかげで、(このブログの中の人も最近そうなのだが)、現代のビジネスパーソンはたいてい、間断なく入ってくる情報に振り回されていたりする。
それを、まずはきちっと3つの要素に分類して、アクション・ステップを確実に片づけていく・・・というのは、できそうでできてない。
いわれてみれば、当たり前のことなのだけれど。

もちろん、一番大切なのは、「アクション・ステップ」だ。
これは「やらなきゃいけないこと」なのだから。
そして、アクション・ステップは「動詞」であらわさなきゃいけない。
そりゃそうですね。「やること」だから「○○する」でなきゃいけない。
さらに重要なこと。
「だれの責任かわからなければ、アクション・ステップは実行されない」。
嗚呼、これは身に覚えのある人も多そうである。


で、情報を受信して整理するための方法論やツールとか、アクション・メソッドを実行するために、ウォルト・ディズニーはどうしてたとか、そういうビジネス書っぽいノウハウについては、長くなるので割愛。ってか本書を読んでください(いつものパターン)

で、このあと「仲間力」「統率力」と話は続いていくのだが、そこで何が書かれているかというと、
「一人では何もなしとげられない」
「透明性がコミュニティの力を強める」
「あえてライバルを求める」
「『働く見返り』を見直す」
「褒めて育てる」
「自分をよく知る」・・・とまあ、見出しを並べていくと、ビジネス書に親しみのある方なら、なんとなく、想像がつくだろうか?
まあ、想像からはそんなに外れていないと思っていただいても、いいのかな?(笑)

あ、けっしてダメってわけじゃないんですけどね。ザッポスをはじめ、アメリカで成功した起業家のエピソードとか、興味深いものも多いし。
あ、あと、「仲間力」のところで、SNSツイッターをはじめとするネットツールの活用の話が出てきたり、自己マーケティングブランディングの話が出てくるのが「今っぽい」という感じはするな。

そして、なぜかこの本、最後は妙に力の入った終わり方をする。

私たちはみんな闘っています。そして耐え抜いています。逆境は私たち強くします。貴重な経験に感謝し、価値あるものを創り出すチャンスと責任を担っていることを糧にしましょう――それがあなたと私たちみんなに恩恵をもたらすことを信じて。

なんだか、ちょっと「アイデアを実現する方法」からは、ちょっと離れているような気もするが。

・・・と、ここまで読んできた方はとっくにお気づきと思うが、このブログの中の人、いわゆるアメリカ系の自己啓発本がニガテである。
それがなぜか、と言われると、簡単に説明するのは難しいし、自分の中でも明確にすべき課題という気はしているのだが。
いや、けして、間違ったことが書いてあるとは思わないんですけどね。

とはいえ、まずは、もう少し、自分の周辺にあるもろもろの情報を、アクション・ステップ、レファレンス、バックバーナーにきちっと分ける作業を徹底するようにしたいなあと思った次第。
膨大なアクションステップに途方にくれるようなことになったら、いささか怖いのだけれど。