飲食店は科学である ― 『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』 正垣正彦 著
- 作者: 正垣泰彦,日経レストラン
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2011/07/25
- メディア: 単行本
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個人的にはサイゼリアのイタリアンって、「そこそこうまい」と思っている。
味覚オンチといわれたって、そんなことは知ったことではない。
ま、399円のパスタにうまいもまずもないだろ!というのもあるがな。
でも、六本木やら表参道やらにある、そこそここじゃれたお店で、1200円位で出てきたパスタが「サイゼリヤとそんなに変わんないんじゃないか?」ということは実際にある、と思う。
(ただし、こういった現象はとくに東京で顕著に見られるものであって、大阪では、起こらない気がする。
こと食に関して、雰囲気だけで金を取る、という商売は、大阪では成り立たないようだ。)
仕事柄イタリアと縁があって、グラッパ(ワインの絞りカスでつくる、イタリアの食後酒)が好きだった亡父は、時々、ふらっとサイゼリヤに行っていた。
そう、サイゼリヤはグラッパをおいている。意外にこだわりの店、なのだ。ただ「安い」だけの店ではない。
そんなサイゼリヤの創業者が始めて出した本書が、今回のお題。
おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ
長いタイトルだな、それにしても。
「日経○○」という名前でやたらと雑誌を作ってはつぶすことでおなじみ、日経BP社の雑誌「日経レストラン」で著者が連載していた経営論をまとめたものだそうな。
しかし、しらんかったな。日経レストラン。
さて、氏の創業のきっかけは、東京理科大学の学生時代に始めたアルバイト。
そこの仲間と始めた料理店が、サイゼリヤの原点だそうな。
もっとも、最初はイタリアンレストランというわけではなく、八百屋の2階という、あまりよくない立地にあるスナックのような店。
で、なぜイタリアンに転向したのか。
どうやったら客が来るか悩んでいた氏が
「本で調べてみると、世界で一番売上高のある野菜はトマトで、穀物は小麦だと分かった <中略>
トマトと小麦粉で作るものといえばパスタ……『何だ、世界で一番食べられている料理はイタリア料理か』とひらめいた私は、それを検証するためにヨーロッパに視察旅行に出かけた」という。
そして、実際にイタリアの食文化にふれ、その魅力を確信し、安くて毎日でも食べられるイタリア料理を日本に広めよう、と決心するのだ。
なんっていうか、きっかけがロジカルでしょ?
そう、この人、ものすごくロジカルというか、科学的な経営者なのである。本人もこう語っている。
「客観的な事実に基づき、仮説を立てて、実行し、検証する。
これはサイエンス(科学)の手法そのものだ。
自分の無知を知り、事実の前で謙虚でなければならないのは科学者も飲食店経営者も同じである」
本書で紹介されるサイゼリアの経営方針も、科学的でロジカルな流儀で貫かれている。
例えば、サイゼリアでは店長に売上目標を持たせることはないし、売上のノルマもないそうだ。
なぜか?
氏によれば、飲食店の売上は「立地」「メニュー」「価格」に大きく左右される。
ところが、サイゼリヤのようなチェーン店にあっては、これら3つの要素は、店長の力量とは関係なく決まってしまう。
とすれば売上をもって店長の力量を測るのは意味がない。
だから、サイゼリアの店長は人時生産性で評価される。
粗利を従業員全員の総労働時間で割る。これが1時間当たりいくらになるか? という指標である。
だから売上が低い店であっても、経費を抑え、効率的にバイトのシフトを組んで生産性をあげるのが「よい店長」なのである。
ね? ロジカルでしょ?
「うまくもない料理を出す店が、何であんなにはやるんだ」という経営者は少なくないが、それは間違っている、ともいう。
なぜなら、「飲食店の料理をおいしいと感じるかどうかは、料理の品質と店の用途があっているかどうかで決まる」から。
毎日の食事のためにその店にいくのか、特別な日のディナーなのか。
普段の食事に、あまりにこった味付けや特別な食材はいらない。
逆に特別な雰囲気を味わうためにくるお客様にシンプルな料理を出せばお客様の期待を裏切ることになる。
ちなみに、サイゼリヤが目指すのは、「毎日でも食べられる」料理だそうな。
この本、そもそもが飲食業向けの経営論なので、メニューや価格設定、食材という業界固有の話題も多いのだが、それを他の業種に置き換えつつ読めば、きわめて普遍的なことを語っている、という印象がある。
科学的とかロジカル、とは、そういうことなのであろう。
社員教育に関する考え方もきわめてクールだ。
「教育に頑張れば出来るという『根性』や心をこめてやろうといった『気持ち』を持ち込むのは意味がない」とか、
「無駄なことをやめれば、体は楽になり、効率よく働ける。だから効率化とはいかに楽をするかを考えることだ」といった感じ。
今の若い人に足りないのは、気合と根性だ! 的なことをやたらと吹聴して教育や政治まで口をだしたいらしい○○の創業者、××氏とは、かなり趣が違った感じである。
では、正垣氏が、心のそこからクールでロジックだけで動いている人物かというと、そういうわけでもない。
自らの経営ビジョンについて、こんなことを語っている。
「頭の良い人は、私のように『毎日食べられて、体が自然に元気になる料理を世界中に提供したい』といった夢みたいな話はしない。
周囲の人にバカだと思われたくないからだろう。でもずっと話を聞いていると、その夢の実現に力を貸したくなるようだ。
優秀な人材が続々とサイゼリヤに中途入社してくれたのも、そのためだと思う」。
そう、本書の中で自らの理念やビジョンを語るときにも、結構「アツい」のである。
だが、それを現実に落とし込み、周りの人間を組織化して実行する過程においては、きわめてロジカルで科学的につめていく。
このバランス感覚は尋常ではない。
こうしてこの本読んでみると、サイゼリヤ、久しぶりに行ってみようか、という気になってくる。
ただなあ、ウチの最寄のサイゼリヤは、その「リーズナブル」加減に引き寄せられた茶髪の学生さんとか多くて、おっさんが一人でいくと浮いちゃうんだよなあ。。。