うかうかしてるうちに、こんなことになってるぜ ― 『サムスンの決定はなぜ世界一速いのか』 吉川良三 著

サムスンの決定はなぜ世界一速いのか (角川oneテーマ21)

サムスンの決定はなぜ世界一速いのか (角川oneテーマ21)

いや、昔はなんか「ああ、日本の真似ッコ商品ばっかりだなあ」という会社だったのになあ。。。。

そんな、あの会社が、今や凄いことになっているわけです、はい。

サムスンの決定はなぜ世界一速いのか』 吉川良三 著 文春文庫

著者は日本大手メーカーからサムスンに招かれ、10年間勤務、その後、東大の「ものづくり研究センター」というところに所属しているらしい。
てか、東大に、そんな組織があるんですね。

で。

本文にもでてくるが、今やサムスンが「なんとなく日本の真似をしている二流メーカー」と思っているのは、日本人くらいのものかもしれない。らしい。
たしかに、90年代初め頃、日本にサムスン電子の家電とか入ってきたときは、そんな感じだったなあ。。

それが、本書によれば凄いことになっている。

サムソンは、今や、薄型テレビの分野で世界シェア1位。
携帯電話の生産台数は年間2億5000万台。(日本のメーカーは、年間1000万台レベル)
日本の家電大手八社(東芝ソニーパナソニック、シャープ、富士通、NEC、三菱電機、日立、順不同)の、2010年3月期の、営業利益は約8327億円。
対するサムソンの2010年の営業利益は約17兆3000億ウォン(約1兆2800億円)。
サムソン一社のほうが、儲けてる!!

で、その勝因はなにか。

一つは、各国市場にきめ細かく対応する体制を確立したことだろう、と著者は言う。

デザイン、機能等々、市場にあわせてきめ細かくつくる力が凄いらしいのだ、サムスン

たとえば、冷蔵庫。
インドで冷蔵庫を売ろうと思ったら、チルドだのなんだのつけるより、「鍵がかけられること」が大切だったりする
使用人が中身を勝手にもっていっちゃうから。
アフリカで携帯を売るのに、「QRコード」の読み取り機能なんかいらない。
これはサムスンじゃなくてLGの携帯だが、メッカの方向を表示できる機能をつけると、イスラム圏で売れたりする。

日本の家電製品や情報機器は、「作り手の思い」で最先端の機能を詰め込むことが多いが、
そういうことはやらないのである。
その代わりに、徹底的な現地市場のリサーチにより、「売れる」商品をつくるのである。
デザインの数も半端ないらしい。
テレビだけでも、機能はそんなに変わらないけど、デザインの違いがハンパ無いので、世界市場を合計すると、年間1000モデルに達するとか。

で、各国市場の動向を掴むために「地域専門家」というのを養成しているらしいのだが、これが凄い。

候補者には3ヶ月間、派遣される予定の外国語や文化を泊り込みで、みっちり叩き込む。
その間、自国語の使用は禁止。
で、その後半年〜1年間、その国で暮らす。
その間、「仕事」はしなくてよい。
ただし、空港に着いた瞬間から、1人で全部やらなきゃいけないらしい。
家探したり、とか。

そうやって徹底的に市場となる国・地域の事情を吸収した社員が、「その国で売れる商品」を考えるというのだ。
こりゃ、すごい。

サムスンというのは、いわゆる「財閥」で、李健煕(イ・ゴンヒ)会長というのが、絶大なる権威と権力を持つ。
現在のサムスンの体制をつくったのはこの人。

もともとは、「日本企業に追いつけ追い越せ」で頑張ってきたサムスンだが、この会長さんが93年に、「このままではいけない」と、大幅な改革にドライブさせたわけだ。

この当時「嫁と子供以外は全て取り替える」「日本にはお世話になったが、今後は一切日本のやり方をしてはいけない」と社員を鼓舞したという。

さらに、97年におきたアジア通貨危機以降、さらに改革を加速させる。
(ちなみに、このとき、韓国の現代財閥は事実上解体、サムソングループも、自動車会社をルノーに売却するなどの整理・縮小を余儀なくされ、グループ140社が83社となった)
で、現在に至る、と。

現在のサムスンは「トップダウン」ではなく「ボトムアップ」を標榜しているらしいんだが、これはどうなのかな?

というのは、「ボトムアップ」といってもこんな感じなのである。

たとえば「多様なデザインで売り込む戦略」が確立されたときの話。
これは、会長の「顧客はまずデザインによって心を動かされる」という言葉から始まったのだという。
で、会長はこれ以上、細かいことは自分からは指示しない。
200名いるという参謀集団の秘書室をはじめ、下の人間が必死で「会長の真意」をおもんぱかりつつ、戦略を練るのだそうな。
まあ、確かにボトムアップかもしれないが、ある意味究極のトップダウンという気もする。
一言なにかを発すれば、みんなが必死で考えるわけだから。

え〜っと、他にも、サムスン躍進の秘密はいろいろあるのだが、その辺は原書を読んでくださいw


ただ、あまり文章や編集がこなれているとは言いにくいがな、この本。
同じ話何度も出てきたりするし。
タイトルは「決定はなぜ世界一速いのか」となってるけど、本当に世界一速いのか? どうして速いのか? は正直、あんまり良くわかんなかったけどねw

一つ興味深かったのは、韓国人って「なんで仕事するんですか」というと「お金のために決まっているでしょ」というドライさが強いらしい。
その辺、実は韓国企業の強さ、なのかもしれないな。

最近よく言われていることだが、どうしても日本のものづくりは「日本の技術はトップクラスで、本当に良いものをつくれば必ず売れるはず」という考えにとらわれている気はするな。

日本人にとっても「いらない機能」が大量に詰め込まれているようなの、多いし。

よく言われることだが、iPhoneiPodをつくれる技術は、多分日本の大手メーカーは、たいがい持っている。
っていうか、日本の部品や技術がなければ、これらの製品はつくれない、ともいえる。

なのに、日本のメーカーにはiPhoneはつくれない。
なぜ、そうなのか?
その辺のヒントが、サムソンの成功方程式の中にあるのかな?
というのは感じますね。
実際、サムソンと日本大手メーカーを、純粋に技術だけで比べれば、明らかに日本メーカーのほうが上、のはずなのだから。多分。

ではでは。