計画をたてればいいってもんじゃないよ、という話 − ミンツバーグの経営論

20時ちょうどに「橋下氏、大阪市長に当確」のニュースが流れた日曜の夜。
ちょっとだけ、本題と関係ない話を。

この選挙結果の意味を話しだすと、そりゃもう、山ほど論点はありそうだが、個人的には選挙戦終盤で、石原慎太郎が応援にしゃしゃりでてきて、「俺が手綱を付ける」などとのたまった、というニュースが、ちょっと気分が悪かった。
ポピュリストの面目躍如。石原知事当選時に書いたこと、間違ってないよなあ、と思うことしきり。
以上、時事ネタ終わり。


そんなわけで、『ミンツバーグ経営論』について書いた前回の日記で、触れられないままになっていた第II部の「戦略」、第III部の「組織」のなかから、戦略の部分について。

ミンツバーグの(元)奥様は陶芸家なんだそうで、企業が戦略を策定する様子も、粘土をこねたりひねったり、ろくろの上で形を作り上げるやり方になぞらえる。
どういうことか。

とくに、アメリカ流の戦略論では、戦略立案とは「論理的に計画するプロセス」と描かれることが多い。
アタマのいい人たちが、知識と情報を総動員して計画をつくり、さあ、これを実行しましょう、というわけだ。

で、うまくいかなかった場合は「戦略は正しかったけど、ちゃんとそれが実行されなかったのが問題だ」・・・というのは、一部の(と信じたいが)、「コンサルタント」と呼ばれる人たちのやる手口だけれども、センセに言わせれば、そもそも、それって戦略に対する見方が間違っているでしょ? という話になる。

陶芸家が粘土と格闘するうちに、次第になにかの形が出来てくる。
そこでまた、色々なアイデアが浮かんでくる。
過去の経験が頭の中を交錯しつつ、従来とは違う新たな方向を指し示すこともある。

そうこうしていくうちに、新しい形が出来てくることもあるわけで、企業の戦略というのも、そういうものでしょ? ・・・ということである。

戦略とは、必ずしも理路整然と意図され、計画されたものではなく、試行錯誤しながら形成されていくものですよ、と。

一例として、チラっと、企業戦略の世界でよく言及される、ホンダのアメリカ進出の話なんかも触れている。

ホンダは当初、バイクの本場アメリカで、125〜350CCのバイクを中心に売りたかった。
ところが、これはあまり売れなかった上に、エンジントラブルを起こしてしまった。

そうこうしているうちに、現地のホンダ社員が乗っていた「スーパーカブ」のほうに注目が集まり、こちらの方が主力商品になる。
当時、アメリカではバイクといえば「大型で不良が乗るようなやつ」が主流。カブのような気軽に乗れるようなバイクは少なく、誰も、それが売れることに気づかなかったのだ。
そこで慌ててスーパーカブの売り込みに戦略を転換したホンダのアメリカ進出は、結果として大成功となった・・・という話は、そりゃもう色々な経営本に登場している。

ミンツ先生は、戦略を「プランニング」するのではなく、戦略を「クラフティング」する、という言葉遣いをする。

あらかじめ戦略を立て、それにしたがって緻密に実行していけば成功する、ということはなくて、実行の過程において現実をつかまえ、それにあわせて機敏に戦略のほうを変えていけ、と。
まあ、言うは安し・・・の話ではあるのだけれど。

ま、あれだ。
その昔、とある会社の総務部門にいたときに、毎年「中期経営計画(3ヵ年)」の数字をつめるのが大層なお仕事になっていたけれど、それ自体が目的になってしまえば、あんなものは、何の意味もない、というのはたしかだ。

さらに、そうした組織を実現するために必要なリーダーの資質として、「アート(直感的な能力)」、「クラフト(匠の技術の部分)」、「サイエンス」の3つをあげ、少なくとも、そのうち2つが必要だ、とも説く。
なのに、アメリカの経営学は、サイエンスに偏りすぎだ、と。

先生の見立てに寄れば、ジャック・ウェルチビル・ゲイツは、「アート+サイエンス」、松下幸之助盛田昭夫は「アート+クラフト」ではないか、と指摘しているが、どうですかね?

個人的には、少なくとも日本の戦後の経営者には「サイエンス」な人は少なくて、だからこそ大前研一なんかが『企業参謀』という本を引っさげて、日本に「サイエンス」としての戦略論を持ち込んだときに、大層衝撃的だったのではないか、と想像する。

一方で、その後、「アメリカ的サイエンス」こそが進んでいる、と皮相的にそれを取り入れたとすれば、ことは重大、だろう。
それはそれで、片方によりすぎ、というやつだろう。
ここでスティーブ・ジョブズを持ち出すのは、なんかベタな感じがするが、でもジョブズの経営が科学的な「戦略」のプランニングでできていたとは思えないし。


え? なぜ組織論の話は省略するのかって?
これは、企業の組織を、司令塔(経営陣)、ミドルライン(マネージャー)、オペレーションの主役(現場)、サポート・スタッフ(福利厚生など、他の組織にサービスを提供する)、テクノストラクチャー(組織業務の公的な計画とコントロールに関わるシステム作りなどを担当する専門家)の5つにわけた上で、組織のタイプによって、これらの組み合わせが変わってくる、といった話が中心なんだけど、これ、やや専門的なのと、図解がないと説明しにくいのよね。
中小企業診断士の試験問題に出てきたりするらしいですが。

それにしても、ミンツバーグ。
日本で一般的な知名度が低いのはなぜだろう?

思うに、理由の一つは「これが正解だ!」という特効薬的なことも言わないし、ドラッガーのように「企業とはこうあるべき」というご宣託のようなことも言わないからではないだろうか?
「じゃ、どうすりゃいいんだよ」という問いに対して「それは現実と苦闘して、それぞれが見つけ出すしかない」といわれているような感じ。
そして、それは、多くの場合、真実であるのだけれど。

とはいえ、とことん現場に飛び込む行動力と、卓越した思考力、そして、「出来ないことは出来ない、わからないことはわからない」と言う誠実さ、こそが、この人の魅力なのではないか、という気がする。