仕組みで勝つということ ―『 監督・選手が変わってもなぜ強い? 北海道日本ハムファイターズのチーム戦略』 藤井純一著

実は先々週にこの本についてブログを書こうとして、書き終わり寸前に内容を誤って飛ばしてしまい、そのうえ先週は体調を崩してしまい、もしかしたら、よくよくこの本と縁がないのかもしれないが、3度目の正直を目指して書いてみることにする。

その本はこちら。

監督・選手が変わってもなぜ強い? 北海道日本ハムファイターズのチーム戦略 (光文社新書)

監督・選手が変わってもなぜ強い? 北海道日本ハムファイターズのチーム戦略 (光文社新書)

(↑上の画像や書名はamazonにリンクしています)

なお、あらかじめいっておくが、このブログの中の人は、日本人男性としては野球の知識に乏しく、「社会人の最低限のたしなみ」程度にしかプロ野球について語れないので、あくまで本を読んでのまとめとして語らせていただくことをお許しいただきたい。

さて、この本の著者・藤井氏はどういう方で、この本はどんな視点から書かれているのか。

私はサッカーではセレッソ大阪大阪サッカークラブ株式会社)、野球では日本ハムファイターズ(株式会社北海道日本ハムファイターズ)の代表取締役を務めるという、珍しい経歴を持っています。その中で、日本のスポーツビジネスの優れている点、劣っている点を知ることができ、私なりにそれらを分析し、改善する中で、いくつか「気付いたこと」がありました。
 それらの気付いたことを一言で言えば、
 スポーツビジネスとは、他のビジネスとなんら変わりがない
 ということでした。

経歴について簡単に補足すると、藤井氏は、日本ハム(球団ではなく親会社)の営業畑から、同社も出資したセレッソ大阪に出向、その後、日本ハム(球団)の事業本部長から社長を務め、現在は近畿大学経営学部の特任教授。
札幌移転後の日本ハムを盛り立てた立役者でもある。

本書は実は、題名に「若干の偽りアリ」で、日ハムがなぜ強いのか? について、それほど紙幅を割いているわけではない。
あ、でも、球団経営の黒字化とか、そういう意味での「なぜ強いのか」について語っているともいえるわけだが。

日本のプロ野球球団は、基本的に、昔から「球団の盟主」を自認している某球団など、一部を除いては、「ものすごくお金のかかる広報活動」のような位置づけで、単体でビジネスとしては成立していなかった。

私はサッカーと野球のチームしか見ていませんが、フロントスタッフの“経営の意識の足りなさ”の原因は、まず第一に「予算がない」ということに起因していると思います。野球界に入ってきて、一番驚いたことです。
 選手年俸や球場使用料などのコストが先にあり、後は積み上げ方式で決まっているのです。球団独自の売上げはたったの40%であり、あとの60%は親会社からの補填でまかなっていました。
 その結果どうなるでしょうか。
 フロントスタッフの多くは、親会社を見て仕事をするようになります。
 親会社のご機嫌伺いさえしていたら、自分たちの身の保証はなされるわけですから、当然といえば当然なのかもしれません。

こうした組織を改善するにはどうするかといえば、それに特効薬はないわけで、「組織のフラット化」「ビジョンの設定」「権限のフラット化」「フロントはファンを見よ」といった話になってくる。
ファンとはつまり「顧客」と読み替えてもよかろう。

本書では、こうした「大枠」の話に続いて、「試合収入」(=チケット収入)、「放映権収入」、「スポンサー収入」、「マーチャンダイジング収入」(=グッズなど)と、プロ野球球団の収入の構造と、それぞれの分野での日ハムの取り組みについて語られていく。
具体的な詳細に興味がある方は本書をお読みください、なわけだが、たとえば、試合収入でいえば、日ハムでは「KONKATU(婚活)シート」なんてのもやっているらしい。
男女同数、隣り合わせに座るようなイベントを開催。女性席が発売初日に完売し、二日間で600席の販売に対して、初日28組、二日目34組のカップルが成立したのだという。
何をもって「成立」というのか詳細な記載はないが、実際、婚約したカップルも出て、そのお二人には始球式の権利をプレゼントしたそうだから、それなりに効果の高いイベントだったのであろうと推察される。

さて、「なぜ強いか?」という部分に一番関連するのは、日ハムが作った「ベースボールオペレーションシステム」だろうか。

これは、映画「マネーボール」で有名になった、大リーグ発祥の、ITを活用して選手やドラフト候補者のデータを数値管理するシステムである。
2億円以上を投じて構築されたという。

このシステムの完成以降、チーム統括本部は、12球団に所属する一軍選手、およびドラフトの対象となりうる高校生、大学生、社会人など総勢850人について、スコアをはじめとするデータの数値化に成功しました。

そして、ドラフト指名やチーム編成等に、このデータは存分に活用され、そのことがまた、健全な権限の明確化を支えている。

ファイターズのチーム統括本部は、選手のスカウトやトレード、監督やコーチの任命権などの全権をもっています。チーム統括本部が決めたことは、たとえ社長やオーナーでも覆すことはできません

このような権限をきちっと握ることができるのも、統括本部が、きちっとしたシステムに基づいて判断しているという信頼感が組織全体で共有されているからでもあろう。
その上で、選手の力を適切に見極め、「育成によって勝つ」というのが、現在の日ハムの方針である。

そんなチームで監督に求められるものは何か。

ファイターズの方針は一貫しています。それは、育成で勝つという方針を理解してくれた上で、
「ファンサービスができるかどうか」
という一点です。

そして選ばれたのが、栗山監督だったというわけである。

本書を通してみると、日ハムというチームが合理的なシステムにのっとって人を生かす組織を目指しているのだろうなあ、ということが、よく分かる。
そして、なによりも「成果が出ている」ということが、強い説得力を持っている。

ところで、本書を読んでいくと、時折でてくる著者の「思い」がなんとも面白い。
たとえば、こんな感じである。

あえて名前は挙げませんが、ある球団には、選手やコーチ陣の登用にすべて口を挟むオーナーがいるようです。これではGMや統括本部が力を発揮しようにも、できないのではないでしょうか。

ある球団は、選手の登用やトレード、コーチ陣の任命すべてを一人の監督が行っていたようです。その監督は「勝つことが最大のファンサービスだ」と公言していたようですが、では、勝てないときはどうするのでしょうか。

このシステムには、ジャイアンツの監督と親戚関係にあるから、選手の評価を上げる/下げるといった項目はありません。

育成型チームになるというのは、無用なお金をかけないということです。<中略>
つまり、他球団の4番打者やエースをお金の力で引っ張ってきて、チームを強くするのではなく、あくまでもドラフトなどで獲得した選手を二軍で育てて一軍に供給するシステムで勝負していくということです。


まあ、最初のうちは「あえて名前は挙げません」といっていたのに、後半ではバッチリとチーム名が出ちゃっているのは、ご愛嬌でしょうか?
もっとも、そうはいっても日本シリーズではああいう結果に終わったという事実もあったりするわけですが。