エリートさんたちが考えていることを覗いてみる 『プロフェッショナルコンサルティング』 波頭亮・冨山和彦著

一月以上、間があいてしまいました。
それはなぜかというと、このブログの中の人が、転職・転居にともないドタバタしたという事情によるものです。
京都市内から東京都内に転居したので、「洛中〜」というタイトルは実態にそぐわなくなってしまったのですが、このまま変更はしませんので、よろしくお願いいたします。

さて、今回はこの一冊。

プロフェッショナルコンサルティング

プロフェッショナルコンサルティング

著者の波頭亮氏は、戦略コンサルティングファームマッキンゼーの東京支社国内採用第1号社員、冨山和彦氏はマッキンゼー→コーポレートディレクション産業再生機構経営共創基盤を設立と、お二人ともスターな戦略コンサルタントさんである。
大前某氏や堀某氏のようなマスコミ知名度は無いけれど、それでも、ご存知の方も多かろう。

このお二人が対談形式で、まとめたのがこの本。
なんというか、酒でも飲みながら、ざっくばらんに、でもマジメに語り明かしたような雰囲気。

この本、エリートさん特有の成功自慢、実力自慢が鼻に付く人もいるだろうし、
「本当に戦略コンサルとして実力を発揮するには、半年で1つマスター(修士号)をとるくらいの勉強量が必要。(そして俺たちは、それくらい軽くこなしてきたぜ!)」
「日本で、一流企業の管理職以上の方に有効なアドバイスができるコンサルタントは3000人、一流企業の経営やオペレーションに、明確なな付加価値のある提案が出来る人は300人、トップから相談を受けるに足る経験や実績のある人は、せいぜい30人くらい(いや、当然、私たち二人はそのレベルですけどね」
みたいなことを言われても、私たちのような凡人は恐れ入るしかないわけだけれど、まあ、それはそれ、凡人でも参考になる知見は参考にすればよいわけで。

話は、まあ、本の性質上、広く浅く展開されていくのだが、目次を見れば、雰囲気がわかるだろうか?

序章  エグゼキューション ケーパビリティの時代―― 21世紀のビジネス環境を俯瞰する
第1章 日本企業が変革できない本当の理由―― 経営のリアリティと経営者のリアル
第2章 トップマネジメント・コンサルティングとは何か?―― コンサルティングの本質とあるべき姿
第3章 プロフェッショナルコンサルタントへの道―― 若きコンサルタントの働き方
第4章 本物の論理的思考力を身につける―― ロジカルシンキング&ロジカルコミュニケーション
第5章 東京デジタルホン vs NTTドコモ―― コンサルティングケーススタディ
第6章 世界で勝つための日本の戦略―― グローバル時代の経営とコンサルティング
第7章 「ファクト」「論理」「情理」がすべて―― コンサルタントの武器と陥りがちな罠
第8章 経営の諸問題はたった1つの施策で解決できる―― 日本企業がやるべきこと、コンサルタントができること

まあ、コンサルティング業界よりの話も多いわけだが、1章、4章、8章あたりはビジネスにおける普遍的なテーマだし、6章のケーススタディは興味深いし、その他の章も、「業界外の人が読んでも、まったく面白くない」わけではない。

いくつか、興味深い話題を拾っていくことにする。
第1章 日本企業が変革できない理由 より

波頭「利潤の追求」「バリューの創出」「組織による活動」というのが会社の3つの要件です。つまり、利潤の追求は資本の本能であり、会社の本能。だから環境変化にミートしようとするし、顧客のニーズにミートしようとする。これは健全ないい本能です。儲かるほうへ行かないと目的は達成できないから。
 ただし一方で、会社にはもう一つ、厄介な本能があります。それは会社が人の集団、組織の集団、組織であるということからきている、組織の本能です。組織の本能が求めるものは、自己増殖と変化の排除です。会社と違って資本の本能を持たず、組織の本能だけで動いている官僚組織を見れば一目瞭然でしょう。「そういうことは前例にありません」なんて言って新しいことは拒みながら、年々増殖し膨張しようとする。
〈中略〉
 こうして会社は、資本の本能と組織の本能が二重螺旋のように絡んで動いていく。
〈中略〉
冨山 そもそも相互依存なんですよね。資本が利潤を上げようと思うと、人を使わなきゃいけない。だから2つの葛藤は、2つが相互依存的だから大変なんです。

わかるなあ。人が集まらなきゃ、大きな仕事は出来ない。集まれば、組織を維持すること自体が目的化してくる。。。

冨山 えてして日本の組織って、本能のままに動いてしまう。ダメになっていく会社は、共同体の論理や共同体の価値観に少しでも相反することをやりそうな人間を社長にしないんですね。
〈中略〉
これで順当人事でやっていくと、共同体としてすわりのいい長のような人がやっぱりえらくなる。それで、カネボウのように共同体全体が滅びていく。
 だからよく言われる「平家」「海軍」「国際派」の出番なんですよ、今は。「源氏」「陸軍」「国内派」のほうが日本では据わりがいい。農耕民族型だから。でも、転換点はどちらかというと平家海軍国際派の出番なんです。でも、この手の人たちは共同体としては危険です(笑)

そっかあ、そういうわけで、今年の大河ドラマは『平清盛』をやってる・・・のだとしたら、NHKすごいぞ、という話だが、まあ、そういうことでもない、と、思うけれど。

続いて、第4章 本物の論理力を身につける より

波頭 論理的思考の勘所は、言葉に直したら単純です。独立と相関の区別、ディメンション(次元)の統一、因果の強さ、そんなところです。しかし、それだけのことがなかなかできない。<中略>
波頭 ディメンションがずれたものを一緒くたにしてしまっていることも多い。
冨山 そう、アップルはアップルと、オレンジはオレンジと比較しないと意味が無いのに。
波頭 そういうの多いですよね。
冨山 リンゴとミカンを比較して、リンゴはミカンより素晴らしいと言ってしまう。個人的な好き嫌いの話や、ある種のビタミン含有量を比較しているならわかるけれど、およそどちらが素晴らしいかという問題設定は論理的には無意味です。

ありますねえ、無意味な比較(笑) といいつつ、因果関係が逆になっていたり、独立したものに相関関係をみてしまったり、比較すべきでないものを強引に比較してしまったり、そんなのは、自分もよくおちいりがちなワナです、はい。

他にも、論理と情理(感情のウラにもロジックがある)の話とか、
いくらロジカルシンキングが出来ても、その考えた結果を相手にロジカルに伝えられるロジカルコミュニケーションの力がないといけない、とか、
かつての日本企業はそもそも戦略がなかったから、コンサルがなんか戦略つくって見せるだけで仕事になったけど、今は会社の中に入り込んで、会社の人と一緒に戦略を作ると共に、会社の若い人を鍛える仕事、みたいなのが一番ニーズが多い、とか、
若い人や下っ端の利点は現場のリアリティーが得られること、とか、
ヒントは沢山埋まっている本、という感じはしました。

冨山氏が東京デジタルホン(その後、J−フォン→ボーダフォンソフトバンクモバイルとなる)に携わった経験談も、面白い。
ビジネスオヤジのユーザーが中心だったNTTにどう対応していくか。
当然、「若い女性」をターゲットにしていくことになるわけで、写メール、なんてのも、その延長線上に出てくるサービスだったのである。
当時は、「家には固定電話があるんだから、そっちを使えばいいだろ」というのが、ビジネスオヤジの主流の考え方で、電波の整備もビジネス街や幹線道路が先行しており、若い女性の「オヤジに電話をとられたくないから、家でこそ携帯電話で話したい」というニーズが業界として見えていなかった、とか。

第8章は「経営の諸問題はたった1つの施策で解決できる」と、これまた大きく出たな、というタイトルだが、その施策とは何か。

波頭 今の日本企業でいろんな合理的な意思決定がなされない、あるいは組織の生産性が上がらないのって、年功序列の弊害がすごく大きいと思う。だから年功序列を実質的にきちんと解体すれば、8割から9割の問題って解決すると思っています。
冨山 同感ですね。<中略> 
しかも、それをやったほうが終身制は守れるんですよ、きっと。<中略>
逆に、年功制を守ろうとすると終身雇用は崩壊する。年功序列が残って、終身雇用が壊れる。意外にそうなってしまう場合は多いんですよ。上の世代の既得権に切り込めず、年功的要素が残ってしまい、終身雇用のほうが危うくなってしまっているところがありますね。〈中略〉
年功序列で権力を持っている上の世代が自分たちの年功特権と終身雇用だけを守って、若い世代については、終身に雇用を事実上放棄してしまうパターンです。

以下、「10年選手」という言葉があるように、せいぜい年功が意味を持つのは、社会人になって10年くらいまで、とか、
実は、「元役所」であるJTは、役所における「キャリア・ノンキャリア」の思想と民間のやり方がうまく融合したせいか、30歳くらいまでは、社員の適正を見た上で、そこから「キャリア・ノンキャリア」に分けるような形で、案外、うまく人事が機能している、とか、
新日鉄は、伝統からなるエリートシステムがうまく機能していて、優秀な人がちゃんと引き上げられて、「なんで、こんなヤツがこんなところに座っていられるの?」ということがない、なんて話が続く。
お二人とも、必ずしも、アメリカ的な企業がよいとは、考えていないようで。

それにしても、あれだよ。
権力を持っている上の世代が自分たちの特権を守って、若い世代に犠牲を強いる、というのは、なにも日本「企業」だけに限った話ではない、という説もあるな。

ちなみに、このブログの中の人が転職した先は、年功序列ということは無く、社長を含めて、社員間の呼称は全て「〜さん付け」。
とりあえず、ダメ会社、ではなかったようではある。
さて、皆さんの会社はいかがでしょうか?